一石四鳥で大成功「タカラバイオのDX戦略」、毎日1時間の時短を叶えた“脱ISDN”とは
タカラバイオ株式会社
タカラバイオは、バイオテクノロジーの研究開発によるバイオ産業の支援および遺伝子医療の開発などを展開している。同社では近年、全社を挙げてデジタル化による生産性向上に注力。このうち財務・経理部門では、取り組みの一環として 2024 年 1 月末の ISDN 回線の終了に伴う「脱 ISDN 回線」を進めてきた。実はこの脱 ISDN 回線の取り組みによって、4 つのメリットを享受できたという。本稿では、その詳細なプロジェクトについて、タカラバイオの担当者に話を聞いた。
抱えていた課題
- ISDN終了により業務継続が困難になる恐れがあった。
- 複数銀行の明細取得に毎日2回ログインする作業が大きな負担だった。
- 年数回、インターネットバンキングでデータ連携のトラブルが発生していて運用の安定化が課題だった。
選ばれた理由
- 特定の金融機関に依存しない独立したシステムで、複数の銀行口座を一元管理できた。
- NTTデータが提供しているため信頼性も高かった。
- 他サービスと比べて安価であった。
導入後の効果
- 入出金明細の自動取得と送信処理の高速化により、1日あたり約1時間の工数削減となった。
- 年2〜3回発生していた送信トラブルがゼロになった。
- ISDN利用料、送信ソフト保守費、PCリース料が不要となり、トータルコストが削減された。
ISDN回線の利用で抱えていた大問題
タカラバイオは、2020年に策定した中期経営計画において「業務管理・プロセスの見直し、IT基盤の一層の整備・活用による業務の効率化や生産性の向上をはかる」とし、デジタル化やDXの取り組みを全社で進めている。それは財務・経理部門も同様だ。
同部門では長年利用していた会計システムの刷新など、業務の効率化や時間外労働の削減に取り組んでいるが、その1つに2024年1月末に終了するISDN回線への対応がある。タカラバイオ 財務部 次長 林 徹氏は次のように説明する。
「ISDN回線に接続した専用のパソコンを用いて、国内外の取引先への支払いや従業員の給与などの振り込み依頼データを銀行に送信していたため、その代替手段を早急に用意する必要がありました。入出金明細については、担当者が複数の銀行のインターネットバンキングにログインし、毎日朝と夕の2回、取得していたことが大変な負荷でした。またデータを送信できないトラブルが年に2~3回あったことも大きな問題となっていました」(林氏)
期日までに給与などを振り込むには、決められた日時までに振り込みデータを銀行へ送らなければならない。万が一データが遅れたら、従業員の生活や取引先に大きい影響があるだけでなく、自社の信用にも関わってくる。そこで同社はISDN回線の終了をきっかけに、より安定的に振り込みデータを送信でき、かつ入出金明細も容易に取得できる新たな仕組みを模索することになった。
タカラバイオが決めたシステム選定の「ポイント4つ」
ISDN回線に代わる新たな仕組みを検討することになった林氏は、調査を開始。その過程で、銀行のWebサイトに掲載されていた「VALUX」と「BizHawkEye」の存在を知った。
「VALUX」はNTTデータが提供する銀行取引用のセキュアな回線接続サービスである。パソコンに電子証明書をインストールすることで、インターネット環境下での安全なデータの送受信を実現する。
そして、VALUXと組み合わせるマルチバンクWebサービスが「BizHawkEye」である。BizHawkEyeを利用すると、通常のWebブラウザを使って複数金融機関の口座・資金管理を一元管理できるようになる。銀行の専用アプリも検討する中、最終的にVALUXとBizHawkEyeの組み合わせを選択したポイントについて、林氏は4つを挙げる。

右から2 人目:財務部 次長 林 徹氏
「特定の金融機関に依存しない独立したシステムであること、複数の銀行口座を一元管理できること、大手企業であるNTTデータが提供していること、そして比較的安価であることが選定の理由でした」(林氏)
こうして同社は、2022年4月にVALUXとBizHawkEyeの導入を決断。クラウドサービスであることから、社内IT部門のセキュリティ審査に加えて、親会社である宝ホールディングスのIT部門による審査を行い、2022年8月に無事、審査をパス。2022年9月から銀行への申し込みやテスト・検証を実施し、2022年12月から本格的な運用が開始された。
なお検証にあたっては、NTTデータのサポートが役立ったと、林氏は次のように振り返る。
「入出金明細を取得したり、振込依頼のテストデータを送信したりして検証したのですが、初回から失敗しました。そこでサポートデスクに電話したところ、BizHawkEyeの設定の問題なのか銀行側の問題なのかを迅速に切り分けて回答してもらえたので、その後の作業がスムーズに進みました」(林氏)
脱ISDN回線で実現した「一石四鳥」の成果とは?
BizHawkEyeの導入によって、ISDN回線の代替という当初の問題は解決した。さらに、複数の銀行口座の入出金明細取得にかかっていた手間も不要になったという。
「現在は、入出金明細はBizHawkEyeのスケジュール機能を使って自動的に取得しています。このため、複数の銀行のインターネットバンキングにログインして明細を取得していた、毎日朝と夕の2回行う作業が必要なくなりました」(林氏)
また、振り込み依頼データの送信時に起きていたトラブルもなくなった。以前はデータを送信できないトラブルが年に2~3回起き、その原因がパソコン、モデム、回線のどこにあるのかの判断は難しく、解決に半日を費やすこともあった。さらにデータ送信用ソフトで、銀行ごとに細かい設定が必要になることも面倒だったという。
「送信専用のパソコンが不要になったことで、データを送信できないというトラブルはなくなりました。また、送信処理そのものも高速化し、専用ソフトで必要だった細かい設定も不要になりました。入出金明細の取得と合わせて、1日あたりの労働時間は1時間ほどの削減になると思います」(林氏)
さらに林氏は、BCPという観点でも効果があったと次のように続ける。
「弊社は滋賀県の草津に本社があり、すべての事業をここで行っています。財務・経理も草津にあるため、コロナ禍はもちろん、雪などの災害時の対策については以前からいろいろ検討していました。ですが、ISDN回線に接続された送信専用のパソコンがあるため、出社せざるを得なかったのです。しかしBizHawkEyeによって、緊急時には自宅で作業できる環境を整備できました」(林氏)
加えて林氏は、送信ソフトの設定などの属人的な作業がなくなったことも成果だと述べ、コストも含めたトータルの成果を次のようにまとめる。
「ISDN利用料と送信ソフトの保守料金、送信用パソコンのリース料が不要になったことで、トータルのコストは下がりました。にもかかわらず、業務の省力化、BCP対策、属人化からの脱却を実現でき、一石四鳥の成果を得られたのでとても満足しています」(林氏)
たった1つの課題は……解決できれば「鬼に金棒」?
バイオテクノロジーの分野は新しい技術が次々と誕生し、企業間の競争も激しい。急激に変化する企業環境に適応するには、各部署が変化に即応できなければならない。財務部においても、経営層へのタイムリーな情報提供などの役割が求められていると林氏は説明する。
「そのために、やらざるを得ないが手のかかる業務・時間のかかる業務・熟練度が高くなくてもできる業務をシステムに任せ、空いた時間をスキルアップなどの社員教育に割き、より高度な判断を要する業務ができるようにしたいと考えています。振り込み依頼データの送信や入出金明細の取得などはまさにこうした業務であり、そのシステム化にBizHawkEyeはベストな選択であったと考えています」(林氏)
ただし、林氏によれば課題がないわけではないとも。その1つが外貨預金への対応だ。
「BizHawkEyeでは、全銀ファイル伝送による外国送金受付(任意ファイル形式)に対応している金融機関への送信については利用可能だが、残念ながら、弊社が取扱いしている金融機関では外貨預金の残高照会や入出金明細取得、預金振替などはできません。弊社は海外との取引も多いため、それが可能になれば『鬼に金棒』ですので、今後に期待したいと思います」(林氏)
2024年のISDN回線終了に向けて、その代替策を検討している企業は多いだろう。ただ代替するのではなく、コストを削減し、トラブルの低減と業務の省力化、BCP対策、属人化脱却まで実現したタカラバイオの取り組みは、こうした企業にとって参考になることが多いのではないだろうか。