小田急不動産の経理がバンキングシステムで一新した理由、「DX推進」の軌跡とは?

小田急不動産株式会社

51~500名 不動産 BCP対策 DX推進 照会業務 振込業務 資金集中・配分

小田急不動産は、不動産の賃貸、販売、個人顧客の仲介などを展開する総合不動産企業である。同社の経理部門は、オフィス内の PC に導入した 2 つのシステムを切り替えて資金管理を行っていたが、使用していた ISDN 回線のサービス終了や、コロナ禍での BCP 対策など新しいシステムへの移行も急務となっていた。課題解決に取り組み、さらに在宅勤務の環境も整備するなど、「業務効率化」「BCP対策強化」「ペーパーレス推進」「クラウドへの乗換え」「DX推進」の5つに取り組んだ同社のキーパーソンに話を聞いた。

抱えていた課題

  • ISDN回線終了とコロナ禍による在宅勤務対応の必要性が重なった。
  • 2つの異なるシステムを1台のPCで切り替え使用していて非効率だった。
  • 複数の金融機関・口座を管理する必要があり、業務が煩雑だった。

選ばれた理由

  • クラウド型で在宅勤務にも対応、BCP対策としても有効だった。
  • VALUXとの親和性が高く、既存環境を活かせた。
  • 複数口座の一元管理が可能で、業務効率化に直結した。
  • NTTデータのサポートが充実しており、導入もスムーズだった。

導入後の効果

  • 1時間以上かかっていた入金データ処理が約10分と大幅に時間短縮できた
  • クラウド型のため子育て中の時短勤務者でも、在宅で業務対応が可能になった
  • 業務効率化により、既存業務の見直しや新たな課題への対応時間を確保できるようになった。

回線の異なるシステムの非効率さが「柔軟な働き方」を阻害

小田急不動産は、小田急グループにおける不動産事業の中核を担う企業である。その資金管理を担当しているのが、経営企画本部経理部 財務・資材グループだ。

個人の賃貸から大手企業の不動産までを扱うため、管理する金額の振れ幅が大きく業務も多岐にわたる。また、取引先への支払いが遅れると、相手企業の事業継続に影響を与えるため、その責任は非常に重い。したがって、少ない人数で効率的に、かつ着実に業務を遂行することが同グループの重要な命題となっている。

同グループでは資金管理を2つのシステムで行っていたが、これが業務の非効率につながっていたと、経営企画本部 経理部 財務・資材グループ チーフ 小澤 哲也氏は説明する。

担当者の写真
小田急不動産 経営企画本部
経理部 財務・資材グループ チーフ 小澤 哲也 氏

「2つのシステムのうち、1つは社内口座の資金移動や残高照会などを担い、もう1つは全銀ファイルの伝送や照会・取得などを行っていました。社内にある1台の共有PCで、2つのシステムを切り替えて使っていたので、同時に複数の作業ができずとても非効率でした」(小澤氏)

また、使用する回線も異なっていた。一方はVALUXを利用したインターネット回線だったのに対し、一方は公衆回線を使用していた。

「ISDN回線は2024年1月にサービス終了します。当社では各部門で口座を持っている都合で取引銀行・管理口座ともに非常に多かったため、早期の対応が必要でした。併せて、在宅勤務の対応をはじめとして、システムだけでなく働き方そのものを改善することを目指したとき、2つのシステムの統合は必要不可欠だと考えました」(小澤氏)

新しい仕組みが求められた背景にはコロナ禍をきっかけとする事業継続への懸念もあったと、経営企画本部 経理部 財務・資材グループ 安食 幸子 氏は次のように説明する。

「セキュリティ対策として、システム利用に必要な電子証明書は部門共有のPCにのみ入っていたため、出社制限のあったコロナ禍では財務担当の4人が2人のチームに分かれて日替わりで出社しました。在宅勤務でできることも限定的だったため、業務負荷も大きく、日々の業務を回すのに精一杯の状態が続いていました。経理部でも在宅勤務やリモート対応ができないと、有事の際に社内外に大きな損害
が出る懸念を感じました」(安食氏)

こうして同社は、ISDN回線からの脱却と2つのシステムの統合による業務効率化、さらにBCP対策の整備による働き方改革とDX推進を検討することになった。業務フローの見直しや改善により「DXが生み出す時間を、新たな課題に取り組む時間に充てる体制の実現」までの軌跡を解説する。

複数の金融機関の口座を一元管理できる「BizHawkEye」を選択

同グループが最初に検討したのは、金融機関が提供しているネットバンクだった。ただし、残高照会、資金移動、振込、振替など必要な機能はほぼ網羅されていたが、銀行ごとに別々にログインして操作する手間があり、コストも高いのが難点だった。

そこで有力な候補となったのが、NTTデータのBizHawkEyeだった。BizHawkEyeは、NTTデータが提供するセキュアな回線サービス「VALUX」と組み合わせて利用するマルチバンクサービスである。PCに証明書をインストールし、Webブラウザから1つのIDとパスワードで複数の金融機関にログインして一元的に管理できる。

「複数の金融機関の口座を一元管理できるのに加えて、コスト的に妥当であったこと、さらにクラウドサービスであり、トランザクション認証があることから、有事の際にリモート対応が可能である点を評価しました。また、VALUXを社内口座用のシステムですでに利用していたことも安心感につながりました」(安食氏)

こうして同グループはBizHawkEyeの導入を決断。2023年立春ごろからの稼働を見据えて、現在、その準備・テストを行っている。

担当者の写真
小田急不動産 経営企画本部
経理部 財務・資材グループ 安食 幸子 氏

「金融機関によって提供しているサービスが異なり、口座数も非常に多いことから、各事業部の営業活動に支障のないよう、金融機関ごとに異なる点を確認しながら契約内容の変更や口座登録などの設定を行っているところです」(小澤氏)

なお、導入に際しては、NTTデータのヘルプデスクが大いに役立ったという。

「他の業務や、システム乗換えのため複数の金融機関との契約変更作業と並行し、BizHawkEyeの設定に関する業務を担っていたのですが、ヘルプデスクは非常に有用でした。たとえば口座の登録方法がわからなかった際には、専用フォーマットに入力して一括で取り込む方法を教えてもらいました。1つずつ
登録したら7~8時間はかかった作業が1時間程度で完了したのです。私は子供がいるため時短勤務をしているのですが、それでも対応することができ、とても助かりました」(安食氏)

業務効率化によって業務時間を削減、
生まれた時間を新たな課題着手に

メインで利用している口座については設定の約8割が完了し、現在はテストを実施しているところだ。小澤氏は、現在の状況を次のように説明する。

「従来のシステムで行っていた業務は、ほぼそのまま運用できています。BizHawkEyeに移行したことで業務フローを変えることを想定していたのですが、意外に不都合は起きませんでした。もちろん既存業務を見直す上で、新たな課題も見つかりましたが、今はそちらの解決に充てる時間も確保できています。2つのシステムをBizHawkEyeに統合したことで、課題であった業務の非効率も解消されました」(小澤氏)

BizHawkEyeへの移行は、データ伝送、資金移動、入金データの取得など段階的に進め、年度内の2023年3月末までには完了する予定となっている。

「システム入れ替えにあたって、新たな体制を検討していく中で、属人化していた業務が共有され、グループ内での連携も取りやすくなりました」(小澤氏)

BizHawkEyeの7つの特徴の概要図。
POINT1、ID/パスワード/トークンを1つに。1度ログインするだけで、登録したすべての口座の取引が可能。POINT2、マルチバンク対応。異なる金融機関の取引を一元管理。POINT3、ソフト管理が不要に。Webブラウザベースで提供され、インターネット環境があればどの端末からでも利用可能。POINT4、強力なセキュリティ。サービスの利用や送金処理の際は、電子証明書による端末認証に加え、二次元コードを用いたトランザクション認証を採用。POINT5、ワークフローを標準搭載。送金の申請・承認など、これまで別のシステムや紙を利用するしかなかった「ワークフロー」機能を標準で搭載。POINT6、スケジュール予約も可能。残高や入出金明細の取得を、定期的に実行するスケジュール機能を搭載。POINT7、資金集中・配分。本社・支社・営業所など複数口座の一元管理をサポートする「資金集中・配分」機能を提供。
※1 トークン:一定時間ごとに変化する使い捨てのワンタイムパスワードを生成する機器 ※2 電子証明書:電子的に作られた身分証明書のようなもの。電子証明書をパソコンに保存し、サービス利用時に提示することで、正当なパソコンであることを確認します ※3 トランザクション認証:取引内容を二次元コード化し、専用トークンで読み取り、確認することで、取引(トランザクション)の内容が通信途中で改ざんされていないことを確認する認証方法

業務にかかる時間が格段に短くなった。その1つが入金データの取込処理だ。

「現在は金融機関の口座ごとに入金データを取得し、口座ごとに会計システムに取り込んでいるため、確認作業も含めて1時間以上かかっています。しかし、BizHawkEyeはまとめて取り込めるので10分もかかりません。入金データの取得は毎日行うため、移行後のその効果は大きいと思います」(安食氏)

さらに、「BCP対策の高度化」についても、安食氏は次のように期待を語る。

「BizHawkEyeの承認フローを活用すれば、自宅や外出先、オフィスで申請・承認ができるので、申請者・検査者・承認者全員が必ずしも出社している必要がなく、振込振替や資金移動などの業務ができます。これまでは、ミスの許されない業務だからという理由で必ず出社し、その場でダブルチェックして確認していたのですが、こうした運用も変えることができ、BCP対策としても大変有効だと考えています」(安食氏)

スケジュール機能の活用や他システムとの連携で
デジタル化を加速し、全社のDXをけん引

同グループでは、BizHawkEyeへ完全移行したあともさらなる活用を検討している。特にBizHawkEyeに用意されているスケジュール機能を使った自動化への期待が高い。

担当者の写真

「現在は、毎日、手動で入金データを取得して会計システムに取り込んでいますが、BizHawkEyeのスケジュール機能を使えば、適切なタイミングで自動取得できると思います。また、資金移動についても、残高が一定金額以上の口座から親口座に資金を移動するといった処理の検討をしており、確実で安定的な資金管理を実行できるようにする体制を整えます」(安食氏)

なお、BizHawkEyeを活用している企業では、スケジュール機能を使ってこのような自動化を実現しているケースが多い。クラウドサービスであるため、PCを起動していなくても実行できる点がポイントだ。

BizHawkEyeは、これまで同グループが実現したかったデジタル化を加速し、会社全体のDX推進にも貢献していける期待感があると、安食氏は次のように述べる。

「先日、上長と話をした際に、『財務の仕事がここまで変わるとは思わなかった』と言われました。5年前はすべてが紙で、出社が当たり前でした。子供の体調が悪いと休むしかなく、その結果、他のスタッフの負担になっていました。しかし、現在は業務効率化に加え、在宅勤務での体制も具体的に整備できています。」(安食氏)

さらに安食氏は、BizHawkEyeと他システムとの連携についても期待を寄せる。

「インボイス制度や改正電子帳簿保存法へ対応、全銀EDIシステムの活用などを進めるには、会計システムなどの他システムとの連携が必要です。また、口座振替、自動引き落としなどにともなう各種確認作業も、他システムと連携することで自動化できるのではないかと期待しています」(安食氏)

小田急不動産では、全社を挙げてDXに取り組んでいる。その中でも、BizHawkEyeを活用した財務・資材グループの取り組みは注目度が高いという。小澤氏は「我々が旗振り役になって全社のDXをけん引していきたい」と、今後の取り組みに意欲を示す。BizHawkEyeに求められる役割と責任は、ますます大きくなりそうだ。