フロッピーディスクを月200枚使用…岩国市の“時代遅れ”業務を大転換した「経理DX」
岩国市役所
山口県最東部に位置し、人口が約 13 万人の岩国市。同市市役所では、金融機関とのデータのやり取りにフロッピーディスクを利用するなど前時代的な業務運営を行っていた。職員には重い負担がのしかかり、そうした不効率な業務からの脱却が急務の課題だった。これに加え、データのやり取りに使用していた ISDN 回線(INS ネットディジタル通信モード)が 2024 年に終了し、その対応にも迫られる。こうした課題を解決するため、市役所では DX の推進に本腰を入れ始めた。ではどのような取り組みを進め、どう成果を出しているのか。岩国市役所 出納室の 2 人の担当者に話を聞いた。
抱えていた課題
- ISDN終了により既存システムが利用できなくなる懸念があった。
- 月200枚近くのフロッピーディスクを使って金融機関とデータ連携していたため、業務負担が大きかった。
選ばれた理由
- VALUX対応により既存の接続環境からの移行がスムーズだった。
- クラウド型で柔軟な運用が可能となり、セキュリティ面でも安心できた。
- 他サービスも検討したがコストが安かった。
導入後の効果
- 金融機関との連携も自動化され、職員の負担が軽減された。
- 月200枚のフロッピーディスク対応がなくなり、業務時間が大幅に短縮された。
- 取引照会や残高照会がリアルタイムでできるようになり、通帳記帳が不要になった。
職員の重すぎる負担…課題は「脱フロッピー」「脱ISDN」
岩国市役所 出納室は、市の会計を管理する重要な部署だ。同部署では長年、歳出にあたる「総合振込と職員への給与振込」、歳入にあたる「税金などの口座振替」について、フロッピーディスクを使って金融機関とデータをやり取りしていた。
具体的には、総合振込と給与振込については、各担当課から出納室にフロッピーディスクが持ち込まれ、出納室でデータを確認したあと、市役所内にある指定金融機関の出張所にフロッピーディスクを手渡し。一方の口座振替については、固定資産税や市民税などの口座振替データをフロッピーディスクに保存し、金融機関を2~3カ所ずつ割り当てて各担当課の当番制で持ち込んでいた。岩国市役所出納室出納班 主事 梅川 絵里子氏は次のように説明する。
「月末および25日の月2回振替のため、事前に12の金融機関へフロッピーディスクを持ち込んでいました。公用車を手配して金融機関を回る必要があるため、移動時間、窓口での待ち時間を合わせると一つの金融機関でも 1 時間程度かかり、大きい負担となっていました」(梅川氏)
同市では、こうした業務運営による職員への負担が課題となっていた。それに加え、金融機関とのやり取りに利用していたINSネットディジタル通信モードが2024年1月に終了。それに代わる仕組みも急務の課題に挙げていた。これらの課題を解決するため、デジタル化を進め、DXによる業務改革に取り組むこととなった。
圧倒的にコストが安い?経理DXを実現した“ある方法”
DXを推進するに当たり、口座振替に関しては、2021年の4月からINSネットディジタル通信モードを使ってデータを送るシステムに切り替えた。その時点でINSネットディジタル通信モードが2024年1月に終了することを把握していたが、少しでも負担を減らすことを最優先にし、システムの切り替えを決定した。したがって、切り替え当時から回線終了に合わせた新たな仕組みへの移行も急務となっていた。
また、総合振込と給与振込で使っていたフロッピーディスクについても、すでに生産が終了しているため、歳出・歳入の両方について、金融機関とデータを一元的にやり取りする新たなシステムが求められていた。
新しいシステムの導入に向けてまず、INSネットディジタル通信モードの終了に対応できること、データのアップロードや取引照会などの作業を各担当課のパソコンで実行できること、などを条件に比較・検討を行った。その結果、指定金融機関である山口銀行から提案されたNTTデータのBizHawkEyeが選択された。
BizHawkEyeは、NTTデータが提供するセキュアな回線サービス「VALUX」と組み合わせて利用できるマルチバンクサービスである。

証明書をインストールしたパソコンでWebブラウザを使い、複数の金融機関と一つのIDとパスワードで取引できるのが特長だ。BizHawkEyeを選択した理由について、岩国市役所 出納室出納班 主任 上尾 裕子氏は次のように説明する。

出納室出納班 主任 上尾 裕子氏(右) 出納室出納班 主事 梅川 絵里子氏(左)
「当初、口座振替に関してはすでにISDN回線を使ったFBソフトによる伝送を行っていたため、同じソフトを利用し回線のみ切り替える予定でした。しかし、FBソフトを利用すると、ソフトをインストールした出納室のパソコンでしか利用できないため、各担当課が作成したデータをUSBなどの媒体に保存して出納室に持ち込む必要があります。しかしBizHawkEyeであれば、各担当課のパソコンに証明書を
インストールし、BizHawkEyeでデータをアップロードしてもらい、出納室で承認した上でデータを金融機関に送れば完了です。各担当課と出納室で媒体によるデータの受け渡しが不要となる点が一番の決め手となり、また、ソフトの更新が不要なことも魅力的でした」(上尾氏)
コストが安かったのもBizHawkEyeを選択した理由だったと、上尾氏は次のように説明する。
「BizHawkEyeとともに、他サービスも検討しました。ただ、私たちの使い方だと、金融機関の手数料なども含めて試算した場合、BizHawkEyeの方が圧倒的にコストは安くなりました。また、閉域網を利用できる他のサービスも検討しましたが、BizHawkEyeではインターネット回線を用いながら証明書やトランザクション認証等で十分なセキュリティを確保できると判断し、BizHawkEyeを選択することにしました」(上尾氏)
最大成果は「脱フロッピー」ともう一つ
BizHawkEyeの導入にあたっては、移行導入サポートを利用し、NTTデータのオペレーターの案内に従って画面を操作し、出納室のパソコンへ証明書のダウンロードや各種登録作業を行った。その後は出納室の職員が約15の担当課を回ってパソコンへの証明書のインストールと操作説明を行った。市役所外にある外局については電話で説明したが、いずれも非常にスムーズだったという。梅川氏は次のように説明する。
「BizHawkEyeは画面がシンプルなので、何をしたら良いのかがひと目で分かります。担当課の職員は、今までフロッピーに保存していたデータをアップロードするだけなので、1回の説明で理解していただけました。実際に操作が分からないという問い合わせはほとんどありません。また、今後人事異動で担当者が変わっても、問題なく使えると思います」(梅川氏)
なお、出納室と各担当課では、BizHawkEyeの権限設定で閲覧や操作可能な範囲をユーザーごとに仕分けている。出納室では管理者権限ですべての処理ができるのに対し、各担当課については、振込データのアップロード、必要な口座の取引照会など処理を制限することでセキュリティを担保しているという。
こうして、2022年10月からBizHawkEyeによる新しい運用がスタート。先に総合振込と給与振込での利用が始まり、口座振替については、2023年2月から本格運用が予定されている。その成果について、梅川氏は次のように説明する。
「やはりフロッピーディスクがなくなったのが最大の成果です。振込には月に100枚、正と副(予備)を合わせると200枚近くのフロッピーディスクを使っていましたので、それをすべてチェックし、金融機関に届けるといった負担がなくなったのは非常に大きいと思います。また、たまにフロッピーディスクが古いためデータをうまく読み込めないこともあったのですが、その心配もなくなりました」(梅川氏)
さらに紙の通帳がなくなったことももう一つの大きな成果だと、梅川氏は次のように続ける。
「取引照会や残高照会がリアルタイムでできるようになり、通帳の記帳が不要になりました。一部残っていますが、通常利用する普通預金については紙の通帳を廃止して、すべてBizHawkEyeの取引照会、残高照会で対応しています。出納室はもちろん、各担当課が必要なときにすぐに確認できるようになったのは、とても大きい成果です」(梅川氏)
市民サービスもデジタル化!2023年度に開始する施策とは
BizHawkEyeは、証明書をインストールしたパソコンであれば利用できる。したがって、テレワークで自宅のパソコンから利用することも可能だ。ただし、現状ではテレワークは実現できていないと、上尾氏は次のように説明する。
「民間企業でテレワークが当たり前になっていることは認識しています。ただ、出納室の業務をテレワークでできるかと問われると、現状ではまだ難しいのが実態です。金融機関とのやり取りはまだ紙が多いですし、さまざまな入金も納付書を使った処理が多いた
めです」(上尾氏)
なお、岩国市役所では2021年4月に総合政策部行政経営改革課内にデジタル推進班が新設され、市民サービスや職員の業務効率化のためのデジタル化を推進している。
たとえばキャッシュレス決済もその一つ。市税や保険料、手数料や使用料など、窓口での支払いについて、今後はクレジットカードやQRコードなどのキャッシュレス決済に対応する予定だ。また、全国統一的な施策として、固定資産税や市県民税など地方税の納付書にQRコードが印刷される。
「納付書のQRコードを、個人のスマートフォンや金融機関で読み取ることで必要なデータを送ることができる仕組みです。2023年度から実装される予定ですが、こうした取り組みが広がれば、BizHawkEyeによるテレワークもできるようになると期待しています」(梅川氏)
現在は総合振込と給与振込で利用されているBizHawkEyeだが、2023年2月からは口座振替での利用も始まる。その際には、事前にテストを実施して安全性や操作手順を確認する予定だという。これにより、フロッピーディスクからの脱却とINSネットディジタル通信モード終了への対応が完了し、出納室の業務が一気にデジタル化されることになる。BizHawkEyeは、まさにデジタル化対応のキーフックツールと言える。
完全なペーパーレス化、デジタル化の実現にはまだ少し時間がかかりそうだが、岩国市役所と同様の課題を抱えている自治体、企業・組織には、参考になるところが多いのではないだろうか。